■今日の質問「あなたの仕事の信念はなんですか? その信念の先にはどんな世界がありますか?」

こんにちは。みらい創世舎の森泰造です。

 

名古屋名物のおいしいものといえば、皆さんは何をイメージされますか?

エビフライや味煮込みうどん、きしめん、手羽先などいろいろありますが、みそかつもその一つですね。今日は、そのみそかつを一躍有名にした立て役者のひとつ、「株式会社矢場とん」(やばとん)のお話です。

 

「矢場とん」はみそかつを看板商品に、今では東京や地方にも出店し、全国に20店舗を構えるまでになりました。そしてこの会社のすごいところは、社員の離職率の低さです。飲食業界では社員の離職率(起算日(年度初め)から1年間の離職者数÷起算日における在籍者数×100)は平均50%とも言われている中、「矢場とん」はなんと9%。3Kと言われる飲食業界の中にあって、社員にとって居心地がよく働き甲斐のある会社なんですね。

 

これを実現しているのが女将さんである鈴木純子さんの『明快で強い信念と価値観』です。彼女が生まれたのは奇しくも「矢場とん」の創業と同じ1947年。今年で69歳を迎えられますが、今も現場に女将として立っていらっしゃいます。

 

女将が「矢場とん」の二代目である鈴木孝幸さんのもとへ嫁いできた70年代はじめ、お店はみそかつの味こそ評判がよいものの、一介の大衆食堂にすぎませんでした。店内もきれいとは言えず、お客さまに食事を提供する食器はプラスチック製。当然客層はといえば中年の男性ばかりで女性が入店する雰囲気には程遠い状況でした。女将は『家で食事するよりももっときれいなところで、もっとおいしく食べられるのが外食』だと考えていたので、そのギャップに驚かれたそうです。

 

結婚から約20年が過ぎ、やっと自分の考えを店づくりに反映させられる立場になった女将がまず手掛けたのは、長年気になっていたという店頭の短く粗末な暖簾を、赤く長いものに取り換えることでした。その理由は、店自体を改装するお金はないので一番目立つところだけでもきれいにしようということと、女性客に配慮し、店内で食事をする姿が外からなるべく見えないようにするためです。食器もプラスチックから陶器の食器へと少しずつ取り替えました。一度にやると大女将にばれて怒られるからです。

 

こうして「家よりもきれいで、おいしく食べられる場所」を追求していった結果、女将の中に、店を大衆食堂から『誰もが来たくなる名店と呼ばれる存在』に発展させるという明確なビジョンが出来上がったのです。

 

思いを具現化する施策で「矢場とん」はだんだんファンを増やしていきました。そのために女将が信念として大切にしているのが『社員は大切な存在であること』。このことは私がKFCで長年取り組んできたテーマでもあり、大いに共感しました。そして現在の「矢場とん」でも、その精神は受け継がれています。

 

外食産業で日報を書かせているところは他にもありますが、「矢場とん」では社員が店ごとに持ち回りで提出する日報に、数字だけではなく、その日に自分が取り組んだこと、うまくいかなかったこと、今の個人的な悩みなどを書かせています。そしてそれを社長以下全員で共有し、お互いの状況を理解しあったり、仲間から解決策を提案してもらったりできるのが特徴。これが「矢場とん」の人財育成に大きな効果を上げています。女将はその他にも、社員の家族に会い、親御さんに娘や息子の働きぶりを直接伝えたりもしているとか。

 

このように社員を大事にする姿勢は、「矢場とん」の「カンボジア学校建設プロジェクト」にも活かされています。現在「矢場とん」がカンボジアに建設した学校は4つ。原資は何かというと、従業員の募金です(店頭でもお客様からの募金を集めています)。その集め方は、店舗で働く従業員がまかない食を食べたら、その後に自分で自由に決めた金額を募金箱に入れるというもの。こうしてカンボジアに建設された学校へ、社員を研修旅行にも行かせています。

 

「自分たちの募金で建った学校」で、本来ならば学校に行けなかったはずの子供たちが無邪気に学ぶ姿を目にした社員は、感動で胸がいっぱいになり、仕事へのモチベーションも上がります。これも女将の『ほしいと思う人からあげられる人になってほしい、そんなことができる会社でありたい』という信念から創られた制度です。

 

女将の大きな愛と信念で創られた「矢場とん」の社風。これが仕組みとして具現化されているからこそ、社員に理解され、離職率も低いのでしょうね。個人的にはみそかつ全部食べ切るのは年齢的に少々キツイのですが、私も店の近くを通った際にはまた寄ってみようと思います。

 

あなたの仕事の信念は何ですか? その信念の先にはどんな世界がありますか?

 
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